追跡

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追跡

「ど、ドラゴンの子? 」 グァロンの言葉を聞いた男は数秒後、腹を抱えて笑い出した。呆気にとられたグァロンは、知らず知らずの内に人間化を貼り直していた。 「かっはっはっは!! たまにいるんですよねぇドラゴンだって言い張るリザードマンが。いつまでも子供じゃないんですから、そういうのやめましょうよ」 男は丁度手元にあったワンピースを、グァロンに向かって投げた。 「こ、これは? 」 「差し上げます。面白いものを見せてもらったのでね。その子に合うように仕立てるといいですよ」 ではまたのご来店を、と男は二人を追い出した。ワンピースを握りしめてボーっとしていたグァロン。 「じゃあ、行こうか」 少女と手を繋ぎ、再び肉屋に向かった。 -肉屋- 「グァロンくん?! サイクロプスちゃん?!大丈夫だったかい?! 」 肉屋の主人は凄い勢いでグァロンに迫った。 「ど、どうしたんですかそんなに慌てて」 「あ、いや。何もないならいいんだ」 主人はその大きくガタイのいい体を、椅子に預けた。 「俺は、いつも客を一番に考えてた。自分が徹夜することになろうと、獲物狩りで怪我をしようと、客が俺のすべてだった。反対に、服屋のあいつは客から金をとることしか考えてない。そして異種族嫌いだ。この多種多様な種族を認める世の中でだぞ? あいつとはライバルだった。決して悪くはない仲だったのに。ガキの頃は友達でもあったのに。奴は客から金をぼったくりやがったんだ」 主人の表情は次々と切り替わった。見ていて、その場の景色が見えてくるような感覚だった。 「店を切り盛りする者として、最低なことをしやがったんだあいつは......おっと、何か用があるんだったか? 服のなんやかんやは女房に言ってくれよ? 」 「はい、ありがとうございます。貴重なお話を聞かせていただきました」 「い、いやそんな......」 すると、ずっとグァロンの後ろに隠れていた少女が、主人の前に立った。そして、座っていた主人の頭を撫で始めた。 「お、お嬢ちゃん......」 主人は思わず、涙を流して少女を抱き締めた。 「すまねぇ、すまねぇお嬢ちゃん。涙がとまんねぇ......」 グァロンは黙って店の奥に行った。 「すみません奥さん。このワンピースをあの子に合うように仕立てて欲しいんですが」 「なるほどね。じゃあ女の子を連れてきな。測ってあげるから」 「あ、いえ、今は......」 グァロンは後ろを向いて少し微笑んだ。 「今はあの子はご主人のものですから」 「はあん。まあ大体のサイズはお風呂で分かったから、まかせときな! 」 「ホントにありがとうございます」 -数分後- 「でーきたできた! そらっ! 白い肌にはワンピースだね! 」 別の部屋で着替えてきた少女は、おとぎの世界の住人なのではないかと思うほど可愛らしかった。 「うわぁあ、綺麗だなぁ」 「ホントだ。美しいぃ」 主人と二人で見惚れていると、肉屋の裏の扉がバンバンと音をたてた。 「客か? だったら正面から入るはずだが」 主人は、扉についている覗き窓を開けた。すると、慌てた様子でグァロンに言った。声は抑えていた。 「まずい! 奴ら異種族狩りだ!! サイクロプスちゃんを隠せ!! 」 いわれた通り奥さんの部屋に連れていった。対応するのは、グァロンと主人だ。 「失礼。ここに単眼がいると聞いたが」 フードがついた黒いマントを着た男たち。その集団の一番前に立っていた男が喋った。 「し、知らねぇな。他を当たんな」 怪訝な顔をして周囲を見回した後、異種族狩りが諦めて去ろうとしたとき、グァロンの方をチラリとみた。それがトリガーになり、異種族狩りの男はグァロンの顔をジロジロと見始めた。 「な、なんですか」 「......気のせいだった。ドラゴンなんぞ、このご時世存在すら怪しいからな」 その時、グァロンの脳内にある推測が浮かんだ。それは、この異種族狩りこそがあの日、自分の母であるシアを連れ去ったのではないかというものだった。 「ちょ、ちょっと待ってくれ! 」 「ちっ、先を急ぐんだ。また後にしてくれ」 マントを翻してその場を去る男。単眼の少女を連れていくのは危険と判断し、グァロンは一人、男たちを尾行した。
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