僕は何も決められない

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「あぁ、てっきり気付いているものだとばっかり思っていました。心中お察しいたします」  天使がお悔やみ申し上げてくる。だが僕の頭には中々入ってこない。  ……あの野郎。いっそこのまま幽霊にでもなって、末代まで(たた)ってやろうか。  いや、でも妻の子孫は僕の子孫でもあるので、それは止めておきたい。であれば、地獄で奴が来るのを待って、一発ぶん殴ってやりたい気もする。 「となると、あなたの査定も変えなければならないですね。私どもも、うっかりしていました」  天使は何か言っているが、妻への怒りで、もう僕の耳には入らない。  地獄でぶん殴ってやりたい気もするが、死んでからも僕を殺した人間と会わねばならないことも、なんだか嫌な気もする。となると長い目で見たら、やはり天国へ行くべきなのか?  どうするべきだろう。  決められない。  収まらない怒りの中、頭を抱えていると、天使は僕に届くように少し大きな声で言った。 「ということで、最期まで身内を疑わなかった、という善行ポイントが加算されましたので、あなたは天国行きとなります。おめでとうございます」 「え……あ、はい……ありがとうございます」  ……知らない間に天国行きが決まっていた。 「優柔不断さで私を苛立(いらだ)たせた事は充分なマイナス要素ではありますが、それを加味して再びプラスマイナスゼロとしてしまうと、また悩まれてしまうので止めておきました、感謝してください。じゃあ、300年間、頑張ってくださいね」  そう言うと天使は何処かへと去っていき、僕の意識体は更に上方へと加速を始めた。どうやらこのまま天国まで登っていくようだ。  ――結局、僕は最期まで何も決められなかった気がする。  なんだか複雑な気分ではあるが、そんなことを今更悔いても仕方がない。天国でも地獄でも一長一短ではあるし、自分で決めきれなかったのだから、むしろ誰かが決めてくれた方が、気が楽だ。  それに天国に行くのであれば、いずれ息子にも会える。息子がやって来たら、あのドラマの結末を聞かせてもらおうと思う。  僕の精神が、退屈に屈していなければの話だが。 〈了〉
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