花火映る夜

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 地元には小規模ながらも夏祭りがあって、毎年2000発くらいの花火が打ち上がった。  道路沿いに列をなす出店はどこも盛況で、たこ焼き、ヤキイカ、りんご飴なんていう昔ながらの店もあれば、クレープとかフルーツジュースなど自分は手を出さない店も増えた。  雰囲気料を払うなら、がっつり腹に溜まる方がいい。  普段から食えるものなのに、やたらと興味をそそられる祭りマジックにまんまと填まってしまう。  食べ物だらけの袋を片手に、スーパーボール釣りや金魚すくい、綿あめや光り物のおもちゃの店に群がる子供たちをみながら、『昔はあれ、すげーやりたかったよな』と回顧するのも夏祭りの楽しみ方の一つだろう。  部活の仮引退を迎えた仲間に『ちょっとした息抜きで行かないか』と誘われて集合したその場所に、彼女はいた。  制服か体操服、部活で統一したジャージとウインドブレーカー、そんな姿しかみたことがなかった彼女が華やかな浴衣に身を包んでいた。  いつも一括りにしただけの黒髪が、高いところで纏められていて、うっすら化粧をしているのも見て取れた。  彼女が俺の姿を認めて片手をあげる。   「おす、お疲れ~」  言葉遣いも、にかっと笑うのもいつもと変わらないのに、いつも以上にドキッとした。 「…おう」  夏だろうが冬だろうが、雨でも雪でも、タイムを計り雑用を引き受け、頑張れと声をかけ続けてくれたマネージャーの一人。  実際俺は彼女に助けられていたし、数少ない喋れる女子ではあった。  でも、それだけだ。  なのに。    なんだこれ。  これも夏祭りマジックなのか?  いつになく動揺する自分がいた。    後輩のマネージャーと浴衣を褒めあい、冷やしパインに齧りつき、「次はあれ」とクレープ屋を指差す。  仲間内に「食い過ぎじゃね?」と突っ込まれて、「あんたに言われたくない」と笑う。    普段通りの彼女のはずなのに普段と違って見えることに戸惑った。      
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