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「帰ることになったらみんなにも連絡いれるよ」
『うん。わかった』
淀むこともなくずいぶん長く話していたが、未来の話が出てきたところで、なんとなく漂う会話終了の兆し。
じゃあ、と言われる前に口にした。
「連絡くれてありがとう。花火、嬉しかった」
端末の向こうで、ニカッと笑う彼女が見える。
『それなら良かった。たまには誰かにLINEしてよ。生存報告くらいはさ』
「そうする。ありがとな」
『いえいえ。…じゃあ、またね』
「おう、またな」
ピロンと通話終了の音。
画面に目をやれば『通話が終了しました 1:02:46』と文字が表示されている。
こんなに長く電話するなんてなかったから純粋に驚いた。
そのまま画面を上にスクロールして、会話のログを遡っていく。
会話してる最中に気付いてはいたが、『花火』『たーまや』の文字が青いことが気になったのでタップしてみた。
背景が暗くなり、また花火が上がる。
アプリケーションに忍ばされた遊び心。
クリスマスや正月にも何かあるのかもしれない。
少しだけ、遊び心が隠されていそうなイベントに楽しみが沸いた。
友達を見てみると、地元の仲間たちとはずいぶん前でログの日付が止まっている。
やり取りしているのはこちらの友人ばかりで、学校の連絡しかしていなかったから、機能に気付かないくらい浅い使い方しかしていないんだなとしみじみ思った。
また彼女とのログに画面を戻す。
もう一度文字をタップして花火を打ち上げてみた。
空を彩る花火に会えるのはいつになるかわからないけれど、年末には会えるかもしれない仲間や彼女の顔を思い浮かべた。
会ったら何かが変わるかな
何も変わらないかな
何より彼女が変わっている可能性もあるんだよな
とりとめもないことを思う。
それでもすごくスッキリした気分だ。
腑に落ちた感情、何かが動き出すかもしれない期待、久々に帰省に向かった気持ち。
どれを取ってもプラスでしかない。
大袈裟に言うなら、欠けた情熱が戻ってきたような高揚感だ。
ザアザアと雨はまだ降り続いている。
ここだけじゃなく広い地域で雨が続いている。もしかしたら花火を予定しているところだってあるかもしれない。
早く上がらないかな
柄にもなく知らない誰かのためにそう思った。
少しずつイベントやライブも復活して、行動も緩和されてはいるけれど、まだまだ制約の多い世の中だ。
何にも気にせず走って、笑って、近い距離で話していた日常はまだ戻らない。
けれど小さな楽しみを見つけ出す作業を重ねていけば、窮屈でも前向きに生きていける気がする。
画面に映る花火に、あの夏に見た花火を重ねた。
きっと来年の夏は今よりいいと、そう信じて。
fin
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