怒車―どしゃ―

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 専務が社員へ合図を送ると、怒車はカタツムリのようにノロノロと動いた。  それを見た社長は声を荒らげる。 「何だあれは! 何をしとるか!」  専務が答える。 「エネルギー不足ですね。試乗で使いすぎたのでしょう」 「これでは宣伝にならん! お前も乗れ!」 「えっ、私が乗ってもあまり意味がないかと……」 「いいから乗れ!」  戸惑う専務を怒車に押し込み、見守る社長。  怒車は少しスピードを上げたが、それでもまだノロノロとしか表現できない進み方である。    社長は怒車を走らせたい一心で、手前にいる専務の頭をポカポカ叩いた。  怒車は少ぉしスピードを上げる。  これはいけると思った社長は「怒れ!」と、専務の頭をバシバシ叩いた。  怒車は少しスピードを上げる。  社長は「しめしめ」と思いながら「もっと真剣に怒れ!」と、専務の頭をバッシバッシ叩いた。  すると、専務は怒車から降りて、社長に言った。 「どうぞ社長がお乗りください。そのエネルギーがあれば、宇宙の果てまでひとっ飛びでしょう」  どうやらこの怒車、怒りは消えるが不満は残る。  専務が社長を見る目は、アサシンのようだった。  ビビった社長は、怒りを求めたことが良くなかったと反省し、次は「笑い」をエネルギーにして走る車――笑車(わらしゃ)の開発に取り組んだ。
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