キアゲハ

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虫かごが空っぽになると、紗羽ちゃんと僕は家に帰るために山を下りはじめた。 途中足場が悪い崖のような場所を通るが、僕が紗羽ちゃんに昆虫のことを夢中で話していると、不意に後ろを歩いている紗羽ちゃんから突き飛ばされた。 僕はその場に転んでうつ伏せの状態に倒れてしまったけれど、慌てて後ろを振り向くと紗羽ちゃんの姿が見当たらなかった。 僕は起き上がって辺りを見回すと、崖の下で紗羽ちゃんが倒れているのを見つけた。 僕はそっと崖の斜面を降りて行って紗羽ちゃんの所にたどり着くと、僕は紗羽ちゃんの体を揺すりながら、 「紗羽ちゃん、紗羽ちゃん…」 と声をかけると紗羽ちゃんが、 「澄翔くん、本当にありがとう!  澄翔君は、私の命の恩人だよ!」 と僕に対する感謝の気持ちを伝えてきた。 すると急に紗羽ちゃんの体が強い光に包まれて、僕はあまりに光がまぶしくて後ずさりしてしまった。 光は少しずつ薄れていって、光がなくなると紗羽ちゃんの姿がなくなっていた。 僕が不思議に思って紗羽ちゃんが倒れていた場所を目を凝らして見ていると、そこにキアゲハがいて僕の方をまっすぐにじっと見ているように思えた。 そしてそのキアゲハは飛び立って、僕の周りをひらひらと舞って、やがて山の上の方向に舞って行ってしまった。 僕はあまりに不思議な出来事に、頭の中が空白になったような感覚を覚えた。 自宅に帰って自分の部屋に戻った僕は、落ち着いて今日あった不思議な出来事を振り返ってみた。 紗羽ちゃんが僕を突き飛ばしたのは僕が話に夢中になっていて、崖で足を踏み外しそうになった僕を助けてくれたのだろうと考えた。 また光の中から現れたキアゲハは夏休みに入った時に、カマキリから助けたハナトラノオの花にとまっていたキアゲハに違いないと僕は感じた。 紗羽ちゃんと出会って楽しい時間を過ごすことができた僕は、とても思い出深い良い夏休みになった。
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