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第一章 人生最良の日
「やりにくいなぁ。松崎(まつざき)さん、ビデオカメラ引っ込めてくださいよ」
「いいから新庄(しんじょう)くんは、まじめに働きなさい」
遠山(とおやま)のカフェに、九丈 玄馬(くじょう げんま)の部下・松崎が通い始めて一週間が過ぎていた。
「劇的な瞬間の記録を、任されたんだ。念入りに練習しておかないとな」
「大げさだなぁ」
そこへ、薫り高いキリマンジャロが運ばれてきた。
「すみません、松崎さん」
「これは、幸樹(こうき)さん。動いても、大丈夫なんですか?」
コーヒーをテーブルに置きながら、幸樹は笑顔だ。
「玄馬さん、ったら。松崎さんに、生まれたての赤ちゃんの撮影を任せるなんて」
「もうすぐ、予定日でしょう。横になっていた方が」
大きくなったお腹を愛おし気にさすり、幸樹は幸せな顔をした。
「働いてた方が、気が紛れていいんです」
実を言えば、少し張って痛い。
ただ、じっとしていれば、どうしても痛みに気が集中してしまう。
それを避けるため、動ける時はこうして働いている幸樹だった。
そこへ、颯爽とバラの花束を持って現れた人影が。
幸樹のパートナー、玄馬だった。
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