第一章 人生最良の日

3/10
前へ
/23ページ
次へ
「若(わか)、ビデオ撮影の準備は、整っています」 「ありがとう、松崎。頼りにしている」  二人でコーヒーを飲みながら、仕事とは無縁の会話をしている男たちだ。  松崎にとっては、これをしくじると一生恨まれるだろうから、何より大切な仕事なのだが。 「しかし、若が父親になるとは」 「松崎には、さんざん縁談を勧められたなぁ」 「いざ、人の親になられるとなると、感慨深いものです」  正直、玄馬と幸樹の結婚を嬉しく思わなかった松崎だ。  始めは。  だが、婚約、妊娠、結婚と、玄馬と幸樹を見守っていると、そんな感情はどこかへ行ってしまった。 (若は、心底幸樹さんを愛していらっしゃる)  心の、支えになっている。  組には何の旨味もない幸樹だが、玄馬にとっては活力のもととなっている。  組長が元気なのは、いいことだ。 「私は、良い父親になれるかな」 「先代の生きざまを見てこられた、若です。大丈夫です」 「ありがとう、松崎」  玄馬は、松崎をはじめ、部下にもよくこういって『ありがとう』と言うようになっていた。  幸樹の影響だが、それは皆に好意的に受け止められていた。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

229人が本棚に入れています
本棚に追加