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美里は何度も吐き続ける。喉の痛みはおさまらず体の異変に気付くが、自分ではどうしようもない。美羽が美里を支え、声を上げる。
「美里さん! ! 竜臣! 救急車! 救急車を呼んで! 早く!」
そう言って支えてくれている美羽の手から、美里はゆっくりと椅子から落ち床に倒れた。美羽の叫び声が聞こえ、美里の意識が朦朧としていく。ぼんやりと聞こえる水城の美里を呼ぶ声や周りの叫び声が徐々に遠くなり、そのうち、美里の意識は途切れた。
*****
ガタン! と大きな音を立て、少し離れて横に座っていた妻の美里が床に倒れた。了はその光景に目を疑い、ゆっくりと立ち上がり美里に近づく。
「みさと…? えっ、みさと? !」
ぐったりして倒れている美里の顔を覗き込む。了は状況が飲み込めず、そっと美里を抱き上げる。口には赤紫色のものが付き、ドレスにまでかかっている。口の端から泡のようなものが垂れていた。
「何があった…? 何で……目を開けない…?」
了は美里の顔を見つめ、溢れる涙をポタポタと零し叫ぶ。
「美里っ! ! なんで! ! 美里!」
その声に周りの皆が慌てて動きだす。七瀬は美里の方に駆け寄り、そばにいた喜多嶋を取り押さえ、持っていた瓶を取り上げる。奥菜は急いで電話をかけ救急車を呼ぶ。
「水城部長、動かさない方がいいかも知れませんよ」
七瀬がそう話かけるが、了は美里を見つめたまま離そうとはしない。了が動揺し周りが見えていない事に気づき、七瀬は了に言った。
「水城部長! しっかりしろよ! そんなんじゃ、美里が助かんねぇだろ!」
「はっ! っ……美里……待ってろ。必ず助けてやる…」
了は七瀬の声で我に返り美里をそっと寝かせ、美羽から美里に何が起きたのか話を訊き、奥菜から救急車の状況を訊いた。
両親達や招待客も集まって来て、チャペルのスタッフも集まって来る。了が現在の状況を話し、救急車が到着次第病院に向かうと話す。チャペルのスタッフは警察へ連絡し、喜多嶋を奥へつれて行く。
奥菜と美羽は会場にいる招待客に状況を説明し、チャペルを出て救急車の到着を待っていた。了と七瀬が美里を見守る中、鷹取と杏が病院の話をしている。
「ここからなら緒原君の『緒原総合病院』が一番近いよ」
「そうだな。陸君に電話してみる。少しでも早く状況を知らせておいた方がいい」
鷹取が電話をかけ、美里の状況を話している。ほどなく救急車が到着し美里が救急車の中に運ばれる。七瀬は救急隊員に証拠となる瓶を渡し「毒薬を飲まされているかも知れない」と話した。
了と鷹取が一緒に乗り込み、病院へと向かう。走り出す車の中、鷹取が救急隊員に言う。
「緒原総合病院に向かって下さい。医院長には電話で連絡してあります。彼女は毒薬を飲まされているかも知れません。急いで下さい」
「了解です!」
了は美里の手を握り、美里をジッと見つめる。
「水城さん、大丈夫だよ。きっと助かる。緒原総合病院は毒物や薬物には詳しい医者がいる。準備をして待ってくれてるから……大丈夫だよ」
「うん…」
病院に到着すると、すぐに病院内に運ばれ処置室へと入って行った。了と鷹取は待合室で処置が終わるのを待つ。
しばらくして、数台のタクシーで両親達や奥菜と美羽、七瀬や冴木、杏が病院に駆けつけ、待合室に入って来た。
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