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手縫いのシャツは完全なオーダーで、個々の身体に合わせて作るものだと聞いているし、職人によっては顧客の職業や、どんなシーンで着るものかまで確認した上で作成することもあるらしい。
あの華奢で、はかなげな彼女がそんなふうに作っている姿を想像すると、なんだかそれは壊したくないような、大事だと言った花小路の気持ちが貴堂にも分かった気がした。
「でも、無理はしなくていい。そんなに注文がある忙しい中に、さらに僕の注文を入れるのは申し訳ないし」
「いいえ。貴堂キャプテンなら、きっといいお客様だから彼女も喜ぶでしょう」
花小路はそう言って、にっこり笑った。
それは氷の王子ではなくて、花王子にふさわしい笑顔だった。
『3日後に帰宅するからその時に食事に行こう』
そのメールにスレッドで時間や場所が記載されている。
紬希はメールを受け取ってから何度も時間や日にちを確認した。
──うん、今日よね。間違いない。
三嶋紬希のお隣の家のご子息である花小路雪真は、パイロットである。
とても優秀でその上綺麗で、誰もが憧れてしまうような人。子供の頃から、紬希の近くにいて優しくしてくれた人だ。
子供の頃から紬希は引っ込み思案で、大人しい性格だった。友達と遊ぶより、スケッチブックに向かって、何か描いている方が好き、というような子だったのだ。
そんな紬希にも雪真は優しかった。
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