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「え? 同じものをもう一つ作るという事? それとても手間ひまかかることだろう?」
「でも仮縫いをしておけば、より良いものが作れるので。サイズも動きも問題なさそうですね、良かったわ」
貴堂は自分の口元を手で覆って大きく息をついた。
シャツの仮縫いなどしたことはなかったから知らなかったのだ。
「本当に、君という人は……」
とても手間のかかることを貴堂のためにやらせてほしいと紬希は言ってきたということである。
それが分かって貴堂は言葉が出なくなってしまった。それを当然のことのようにしてしまう紬希を得難い存在だと思う。
脱いだシャツを紬希に渡し、貴堂はカバンに入れていたお土産の紅茶を紬希に手渡した。
「わあ! ありがとうございます! 紅茶ですね」
「イングリッシュローズティと言うんだって。バラの香りのするお茶らしいよ」
紬希はにっこり笑ってその缶をきゅうっと胸に抱いた。
「お仕事の時に頂きますね」
「うん。実は他にもあるんだがそれは時間がかかるらしいので、また今度に」
「はい……?」
──時間のかかるお土産?
紬希は首を傾げている。それがなにかは紬希にも内緒だ。オーダーなので時間がかかるのだ。
それを渡す時のことも貴堂は楽しみにしている。
「それは僕も楽しみにしているんだ。待ってて」
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