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結局貴堂が手を離したのは、チケットを買う際に財布を出した時だけである。
「ペンギン好きなの?」
パンフレットの表紙をじっと見ていたらそんな風に貴堂に声を掛けられた。
貴堂の気持ちが嬉しくてじんとして、紬希がパンフレットの表紙をじーっと見ていたからかも知れない。
表紙はペンギンだったのだ。
「そうではなくて、いえ、好きですけども」
「ペンギンは一番最後だからね」
「はい。あの、ありがとうございます」
貴堂はにこりと笑って、紬希の頭を撫でた。
「どういたしまして」
紬希が何に対してお礼を言ったのか、察しの良い貴堂は気付いているのに違いないのだから。
水族館は入ってすぐが熱帯魚のコーナーだった。二人でカラフルな魚たちを眺めながらいろんな話をする。
「海の綺麗なところに行ったときはダイビングとかもするんだ。海の中もすごく綺麗だよ」
「すごいです……怖くないのかしら?」
「怖いと感じたことはないな。なぜ怖いと思うの?」
「だって海の中は空気がないもの」
それでも紬希はカラフルな南国の魚たちに目を奪われて水槽にぺったりくっついている。
「紬希、一人では潜らないんだ」
そう言って、貴堂は紬希の手を水槽の上からそっと握った。
その距離は紬希の背後にピッタリとくっつく形で、紬希はまるで海と貴堂に挟まれて抱きしめられているような感覚になり、紬希はくらくらする。
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