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確かに周りに人がいるはずなのに、その存在なんて感じられなかった。
「僕が潜るのはバディって言って、一緒に潜る人がいるときだけだな」
「バディ?」
紬希は背後の貴堂を見上げた。
「相棒って意味だよ。資格を持ったインストラクターの時もあるし、一緒に行ったパイロットの時もある。そうたびたびはできないけどね。バディがいればもしトラブルになったときもお互いフォローできるんだよ」
「フォロー……」
「そうだな、例えばさっきの空気がないって話。機材のトラブルでどちらかのボンベのエアーが出なくなった場合もバディがいたら助け合える」
「そうですね。だから怖くないんですね」
貴堂には他人を信頼することのできる強さがある。
他人を信頼するということは自分を預けることができるということだ。
紬希にはその強さが羨ましく、また頼りがいのあるところでもあった。
「紬希にもエアーをあげるよ」
「え?」
「もし、一緒に潜ってもちゃんと助けてあげるから大丈夫ってこと。でも一緒に潜るのもいいけど、紬希となら潜水艦もいいね」
「潜水艦?」
「観光用の潜水艦がある。大きな窓がついていてね、外が見られるんだ。面白いよ。それなら怖くないんじゃないか?」
紬希は自分の手を包んでくれている貴堂の指をきゅっと握った。
「貴堂さんと一緒なら、怖くないかもしれません」
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