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兄の透の同級生ということもあったかもしれない。
兄のところに遊びに来ている雪真をひょいっと部屋の入口から覗くと、とても優しい笑顔で「紬希もおいで」と声をかけてくれるような人だったのだ。
紬希が周りの女の子にいじわるをされていた時も、雪真は優しくしてくれた。
実際のところは綺麗な顔立ちで優等生の雪真が、大人しい紬希を構うことが気に食わない。
そんな女子が紬希にいじわるをしていたのだけれど。
そんなこととは知らない紬希は、よく物陰で泣いていた。
いつも話を聞いてくれて『紬希は悪くないよ』と言ってくれていたのが、雪真なのだ。
初めて服を作った時も、雪真が褒めてくれたから。
だから、紬希は頑張れた。
現在紬希は自宅の2階を作業場にしている。
店舗はなくて、FAXとネットのみでの注文を受け付けているのだ。
生地の仕入れについては業者をいれているけれど、紬希の作る『三嶋シャツ』は基本的には紬希一人で作成している。
作業場と自宅はドアで区切っているので、そのドアをくぐることで、紬希は自分の気持ちをプライベートと仕事で分けるようにしていた。
作業にひと段落つけて、紬希は自宅に戻る。
「お兄ちゃん」
そう言って紬希はリビングを覗いた。
自宅のリビングの端では優しい兄が、パソコンで作業している姿が見える。
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