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イルカは投げられたボールを持って来たり、投げられたリングを鼻先に器用に引っ掛けて、飼育員のところまで持っていったりする。
「可愛いわ」
「賢いな」
ちょろっと水面から顔を出して、つぶらな瞳で愛嬌を振りまく様子がとても愛らしくて紬希は、はしゃいでしまった。
そうこうしているうちに天井からボールのようなものが降りてくる。
紬希からは相当な高さのように思えたのだが。
「あれって……」
「イルカがあのボールにタッチするんだね」
「え!? でもすごく高いです」
ショーの会場の上の方にいる紬希からも、もっと目線の高いところにボールはあるのだ。
「そうだな水面から5メートルくらいだろうか」
「大丈夫でしょうか? あんな高いところ。5メートルって結構高そうに見えます」
「建物だと2階から3階の高さになるだろうね」
大丈夫なのだろうか?失敗したらどうしよう、と心配する紬希の方が貴堂の目には愛らしく映る。
「勢いあまって水槽からはみ出てしまったり……」
大きな声で笑うことはできなくて、でもその可愛らしい心配につい笑ってしまって静かに身体を揺らす貴堂だ。
貴堂の恋人は心配性で優しい。貴堂は真面目な顔をした。
「オーバーランだな」
「オーバーラン?」
「飛行機でもある事故だよ。滑走路を超えてしまうこと。たいへんな事故になるな」
「え……」
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