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場所も貴堂は紬希が怖がらなくても済むようにと考えてくれて、少しでも人の多い時は必ず手を繋いでくれて、人混みからかばうようにしてくれた時もあった。
「こちらこそありがとう」
貴堂は紬希にそう伝える。
「え?」
「苦手だと言っていたのに連れ出してしまって、大丈夫かと思っていた。けれど君はとても楽しそうで、すごく幸せな気持ちになったよ」
「本当に……楽しかったです」
「紬希……」
向かいに座っている紬希の手を貴堂がそっと握る。そうして、紬希の頬に触れた。
紬希はじいっと貴堂を見返している。
すり……とその手に甘えるように擦り寄る仕草を見て、貴堂はその顎をそっと持ち上げた。
ゆっくり顔を近づけて軽く唇を重ねる。
紬希の琥珀のように綺麗な瞳が見開かれて、じっと貴堂を見ていた。
「また、二人でどこかに行こう」
「……はい」
本当は何度も唇を重ねたくなったけれども、貴堂には自分の感情のままにすることは出来なかった。
今日は、紬希はたくさん頑張ってくれたのだ。
おそらくは貴堂のために。
本当はそれで十分だったのに、手のひらに頬をすり寄せるという可愛らしい仕草に唇を奪ってしまった。
貴堂は紬希の頬を指で撫でた。
──キス……ですよね?
楽しかったと伝えあって、今日何度も繋いでくれた手が紬希の頬を撫でてくれて、だからつい擦り寄ってしまったのだ。
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