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そのまま顎に手が触れたとき、紬希の鼓動は大きく音を立てた。
貴堂のその端正で綺麗な顔が近づいてくるのをただ、紬希は見ている事しかできなくて、気づいたら唇が重なっていたのだ。
とてもどきどきした。
とくんとくんという自分の心臓の音がやけに大きく聞こえて、重なった貴堂の唇の感触が柔らかくて温かかったことはなんとなく覚えている。
そして顔が離れたあと、貴堂がするりと紬希の頬を指で撫でたことも。
とても驚いてドキドキしてしまったけれど、少しも嫌ではなかった。
「怖くはなかった?」
極めて外出が苦手だという紬希に配慮はしたつもりではあるが、それでも一緒にいると貴堂は紬希がひどく目立つ存在なのだということは分かった。
貴堂自身も普段他人から見られることは多いけれど、普段よりも今日はさらに視線を感じた気がする。
それによって紬希が疲れてしまっていないか、大丈夫だったか確認したかったのだが。
「え? あの、とてもびっくりしてドキドキしましたけれど、怖くはなかったです」
「ドキドキ?」
──これは何の感想なのだろうか?
「……え?」
紬希がきょとんとして、貴堂を見つめる。
ふ……とこみ上げる笑みを貴堂は抑えられなかった。直前の自分の行動を思い返して、ははっと笑い声が漏れてしまう。
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