12.最終判断と紙飛行機

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 紬希もゆっくりと頭を下げた。 ──部屋で食事って、お部屋にお料理できる人を呼ぶってことなんですね?  貴堂は紬希の近くにそっと立つ。 「この日は着陸する手前でルート上に急に積乱雲が発生して、僕の機から着陸が難しくなってね」  そう言って貴堂が口を開いたので、思わず紬希は貴堂の方を見る。  貴堂は優しい目で紬希のことを見ていた。 「その日はあまり風がよくなくて、雲を避けたり低空をずっと飛行していたから燃料を消費していたんだ。上空待機も20分が限度、という中決心しなくてはいけなかった。着陸か、代替空港か」  貴堂は模型の飛行機を見つめながら淡々と話しているけれど、まるでそのときの光景を見ているように紬希には感じた。  聞いている紬希もドキドキしてくる。  そうして貴堂は模型の一つを手に取った。 「僕は着陸を決心した。とても難しい判断で、副操縦士も大丈夫でしょうかと迷うような天候でね。上空待機していれば燃料はどんどん消費してゆく。代替空港に行けるだけの燃料を残すことを考えたら最終決断をしなくてはいけない」  そしてその手に持った飛行機を飛んでいるかのように紬希に見せる。 「積乱雲は退く気配はなかったけれど、機はかすめるような感じになりそうだった。いけるんじゃないか、と思ったんだな」 「積乱雲て入道雲ですよね」
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