12.最終判断と紙飛行機

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「そう。あのもくもくしているやつだ。積乱雲というのはあれだけの大きな水蒸気が空に浮くほどの上昇気流なんだ。見た目にはもくもくしているけれど、あの中は大嵐なんだよ。かすめただけでも、ものすごい揺れと振動でこのままだとアラームが鳴るんじゃないかと思った瞬間、視界が開けたんだ」 「雲を抜けた?」 「抜けたんだ。一気に開けた視界に安心した瞬間、機体が上から押される感覚があった。ダウンバーストというんだけど、積乱雲は上昇気流だけではなくて下降気流も発生させるんだ。それに押されたんだよ」  貴堂はそう言って手にしていた飛行機を上から抑えた。  紬希もドキドキしながら飛行機を見守る。 「僕はとっさにエンジンを全開にした。離陸する時と同じくらいのパワーがあるはずなのにじりじり機が下がるんだ」  貴堂の手元の模型もじりじりと高度が下がる。  紬希は息を呑んでそれを見守った。 「そんな気流の強さは経験がなかった。気を抜いたら叩きつけられると思ったよ。そうしたら機体がふわりと浮いた」  貴堂が機体を抑えていた手を離すと、ふわりと機体は自由になって、紬希も安心する。 「そこからゴーアラウンドと言って再度進入をやり直して無事着陸できたんだけれど、とても反省した。確かに誰もけがはしなかったし、無事に目的地の空港に着陸はした。けれど、副操縦士や乗務員乗客を怖い目に合わせてまで着陸にこだわる必要があったんだろうかって。副操縦士にも謝り倒したよ」
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