12.最終判断と紙飛行機

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 そうして機を降りた貴堂に、子供が駆け寄ってきたのだという。 「お父さんを送ってくれてありがとう!」  そう言ったその子は、紙飛行機を貴堂に渡した。  着陸するかに見えた飛行機がまたUターンしていったときは悲しい気持ちになったけれど、また戻ってきてくれて嬉しかったと言ったのだ。  上空待機やゴーアラウンドで着陸は相当遅延したから、飛行場でかなり待っていたようだ。  その間にその子は紙飛行機を折って待っていたらしい。  いくつもいくつも折って、その中で一番上手に出来たものを貴堂にくれたらしかった。 「あの時のベストは出来ると僕が確信することではなくて、乗客の安全を最優先にすることだった。そう反省していた時に、これをもらった。無事に返せてよかったと心から思ったんだ。だから安全に運航することへの戒めなんだよ。それは」  紬希の手から紙飛行機をそっと取り上げた貴堂は紬希ににこりと笑った。 「本当にこれ、よくできているんだ」  そして貴堂は部屋の逆端に向かって紙飛行機を飛ばす。部屋の端まで飛んだそれはふわりと着地した。  その穏やかな横顔を紬希は見つめる。  最終的な判断も命も委ねられていることも十分に自覚していて、飛ぶことが好きで、責任感もある人。  そして、一緒にいるときは紬希をどこまでも甘やかしてくれる人だ。 ──この人の癒しになれたらいいのに。
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