12.最終判断と紙飛行機

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 紬希は見た目にはふんわりしているし、本人も怖がりだと言っていたようにいろんなことに慎重である。  けれど、それは優しさや思慮深さと同義なのだと貴堂は思う。  そして仕事に対してはとてもストイックだ。しかも思った以上にしっかりしている。  紬希の普段の優しさや甘さと、一旦仕事に向いた時のしたたかさのギャップは貴堂ですら見とれるくらいだ。  そして貴堂にはまだ見せていない厳しさもあるはずだ。  そうでなかったら『三嶋シャツ』はあそこまで大きくはならないだろう。  こだわりにどこまでも応える紬希の自分への厳しさが垣間見えたような気がした。 「本当に負けられないよ」  え?と目の前で首を傾げる紬希はひたすらに可愛い貴堂の恋人なのである。  そんな紬希がいつか貴堂の腕の中でどんな顔を見せてくれるのか……と考えなかったと言えばそれは嘘になる。  今すぐには無理だろう。  けれど、いつか紬希がいいと言ってくれたら、そんなところも見せてほしい貴堂なのだった。  自宅の前まで送ってくれた貴堂は車を降りて、紬希を送ってくれた。 「もう、大丈夫ですよ?」  そんな甘やかしにも紬希はくすぐったくなってしまう。 「分かっているんだけどね。まあ単純な離れがたさもある」 「あ……この気持ちってなんだろうって思ったら、離れがたい気持ちなんですね」
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