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いつも貴堂が説明してくれることは、紬希にとても分かりやすい。
説明し難かった自分の気持ちを言葉にしてもらってすっきりした紬希はうふふと笑う。
「恋人同士なら当然の感情だよ。離れたくないって思うのはね」
「だからなのね……」
「ん?」
「お兄ちゃんにこの前、泊まっていただくのはダメだと言われたの。離れがたくなって泊まってもらうのはダメだよってことですね」
──それだけではないと思うが……。
「手強いな」
ふう……とため息をついた貴堂は、階段を上がりかけていた紬希を追って、手をつかんだ。
「紬希」
急に手をつかまれて紬希は驚く。
そして気づいたら貴堂の腕の中にいてきゅうっと抱きしめられていた。
「いつか、君を僕にくれる?」
その意味に思い至って、紬希は貴堂の胸に顔をうずめる。恥ずかしくて顔を上げられないからだ。
──嫌じゃなかったら、嫌じゃないって言わなきゃ……。
「は……い……」
そんな極々小さな声も貴堂は聞いていて「約束だよ」と紬希の耳元に囁いた。
そんな風に甘く熱く囁きかけられて、紬希は膝から崩れ落ちそうだ。
けれど強く強く抱きしめられて、崩れ落ちることすら許されない。
今までも、貴堂に抱きしめられたことはあるけれど、こんな風に包み込むように、まるで奪うように抱きしめられたことはなかった。
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