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今ここにいるのに紬希はまるでさらわれてしまいそうな心地になる。
それでもさらわれていい、と紬希は思う。貴堂にならばさらわれてしまってもいい。
こんな風に思う日がくるなんて紬希は思わなかった。
「キスをしてもいい?」
こくっと紬希は頷いた。
貴堂の手の平が紬希の頬を包み込むようにする。
それに委ねると視線が絡まって、優しいのに熱のこもったその瞳に見つめられて、つい紬希は目を閉じてしまった。
柔らかくて熱っぽい感触が唇を覆って、今までは触れるだけだったキスだけれど、角度を変えて何度も触れ合わされる。
緩く吸われて、唇をするりと舐められた時、紬希は全身の力が抜けそうだった。
もう終わるかと思ったのに、全然貴堂は離れてくれなくて舌先で唇の合わせ目をなぞられた。
あ……と声にならない吐息が紬希の口から漏れそうになって、その隙に舌が口の中に滑り込んできたのだ。
「あ……んっ……」
そんな甘えたような声が自分から出たなんて信じられなくて、紬希はおののく。
それでも逃げても狭い口腔の中では逃げ切れるものでもなくて、ただ絡ませられて、何度もこすり合わされているうちに、そのあまりの濃厚さに紬希は立っていられなくなった。
時折くちゅ……と聞こえる水音には恥ずかしくなってしまって、けれど恥ずかしいだけではない何か熱いものが身体の中心をむずむずさせる。
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