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貴堂に応えることなんてできなくて、ただただその身体に掴まっていることしか出来なかったのだ。
紬希の頭の芯が痺れかけてきた時、ようやく貴堂の唇が離れる。
「紬希? 大丈夫?」
「だ……めです。キスって……?」
「これがキスだよ」
ではお昼間の観覧車の中の唇が触れたあれはなんだったのだろうか?
そう思うほど、昼間のキスと今のキスは全く違うものだったのだ。
「紬希とどうしてもしたかった。嫌だった?」
大好きな人に抱きしめながらされるキスは嫌じゃない。それがとても濃厚なものであっても。
紬希は首を横に振る。
「良かった」
貴堂はきゅっと紬希をもう一度抱きしめて、名残惜しそうに身体を離す。
「また、連絡するよ」
「はい」
紬希はまだぼうっとしていた。
「本当に大丈夫?」
貴堂に聞かれて紬希はこくこくっと頷く。
「いっぱいしたら、そのうち慣れるよ」
──な、慣れるんですか!? これに!?
そう言って、軽く唇を触れ合わせるキスをした貴堂は紬希の頭を撫でて、階段を降りてゆく。
階段を降りきったところで貴堂は紬希に声をかけた。
「紬希が中に入らないと心配で帰れない」
紬希は慌ててドアの中に入り、ちょこっと顔だけを出す。
「おやすみなさい。あの、気をつけてお帰りくださいね」
貴堂は笑って手を振った。
「うん。おやすみ」
──本当に可愛らしい。
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