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13.先にあるもの
「お兄ちゃん。では空港まで行ってきます」
紬希はお出かけする前にひょい、とリビングを覗く。
「うん、気をつけてな。貴堂さんにもよろしく」
「はい。夜は一緒にと言われているのでお食事は済ませてきますね」
「はいはい、行っておいで」
透が普段作業しているリビングの端のスペースから手を振って紬希を見送った。
紬希は最近一人での外出も以前ほど恐怖心を感じずに出かけることができているようなのだ。
業者との打ち合わせでも活き活きと発言することもあって、透は驚いていた。
元々、子供の頃は人懐っこい子だったのだ。
いい傾向だと透は思う。
もちろんそれに大きく寄与しているのが貴堂だということも透には十分、分かっていた。
貴堂に認められて、彼はそれを正しく紬希に伝えているようだ。それが身内の言葉なんかよりも何倍も効果が高い。
こういうことが紬希には必要だったんだと透は痛感した。誰もが成しえなかったことを貴堂がしたのだ。
身内としては感謝の気持ちでいっぱいだ。
──ただそれだけではないってこともなくはないけどな。
貴堂が非常に頼りがいもあり、優秀な人物であることは認める。
けれど、それと兄としての感情はまた別だ。紬希は可愛い妹なのだから。
透の胸の内は非常に複雑なのである。
空港への道は紬希は何度か行って慣れている。
紬希はチェックインカウンターを通り越し、一番奥のエスカレーターを上がっていった。
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