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雪真は紬希が乗ったのを確認してから車のドアを閉める。そして、自分は運転席へと回った。
「今日はイタリアンなんだ。会社の人が教えてくれた。先日行ってみたら美味しかったから、紬希と行こうと思って」
シートベルトを締めながら雪真はそう言って、ゆっくりと車を発車させた。
「ありがとう」
紬希は外出が苦手である。
特に周りの人にじろじろと見られると気分が悪くなってしまうのだ。
実はそれは、比較的整った紬希の見た目のせいであるのだが、本人はそれを意識したことはない。
くりんとした大きな瞳は黒目がちで、優しげだ。完璧に近い形で配置された鼻と唇も、小さく整っている。
儚げな美少女、そんな印象なのだ。
だから外に出るといろんな人の目を引いてしまうのだが、人見知りな紬希にしてみれば、それはじろじろと見られているようでとても怖い。
仕事柄、外に出る必要がないこともあって、最近はさらに外出が苦手になっていた。
雪真に声をかけられなければ、本当に外食もしないくらいだ。
だからこそ直接言ったことはないが、実は兄の透は雪真が紬希を連れ出してくれることをありがたいと思っているのである。
ただ、雪真は紬希にとても甘い。
だから今日のイタリアンも、紬希が人目を気にしなくて済むように、半個室で予約してあった。
雪真が案内したお店は白いモダンな建物だった。入口近くには小さな噴水もあり、中は天井までのガラス貼りになっている。
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