13.先にあるもの

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「そうか……」  紬希は一人で作業しているように見えるけれど、彼女も一人ではなくて良かったと貴堂は感じる。  そして、そんな胸の内を話してくれるようになったことを心から嬉しく思うのだ。 「そろそろ、行こうか」  そう言った貴堂に紬希は、はい、と笑顔を向けた。  二人がデッキから駐車場に移動する途中でのことだ。 「貴堂さん!」  良く通る女性の声がその名前を呼んだのだ。  そこには誰もが振り返るほどの華やかな女性が貴堂に向かって手を振っている。女性の横には一人男性もいた。 「立花部長」  そう言って貴堂は足を止め、男性に向かって頭を下げる。  ロンドンへの乗務が一緒になった新人パイロットの立花航(たちばなこう)の父親で、貴堂の上司に当たる人だ。  立花家は航空一家である。部長である目の前の立花の奥様も元客室乗務員だそうだし、息子の航もパイロットだ。  立花自身ももちろん現役機長だが、今は役職についてしまっているので格段に乗務する機会は減ってしまっている。  それでも、貴堂が新人の頃は機長としてお世話にもなった人だ。 「覚えてますか?」  女性は貴堂を覗き込む。  貴堂は覚えていた。確か立花部長のご息女の立花紫(たちばなゆかり)だ。 「覚えていますよ。立花部長のお嬢さん」 「うれしい!」  紫は貴堂に屈託のない笑顔を向ける。 「この前は(こう)と一緒になったらしいね」  立花も鷹揚な笑顔を貴堂に向けた。 「はい。ロンドン便で。とても優秀な方ですね。いろいろ助けて頂きました」
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