13.先にあるもの

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「とても控えめで綺麗なお嬢さんだな」  感心したような父の声に紫は言い返す。 「地味です」 「お前は……」  航大卒の立花は同じく航大を卒業している貴堂を新卒の時からとても可愛がっていて、自宅に招いたりもしていた。  貴堂が優秀であることも十分理解しているし、その人柄に間違いがないことも分かっている。  パイロットとしての腕や、人格については理解しているけれど、こと女性関係については上手くいっていないというような話も聞いていた。  それは派手だとか、軽いとかそういうことではなくお相手の女性は「とても素敵だし、すごく優しいんですけどね……うん」と濁すような雰囲気なのだ。  貴堂はパイロットという仕事と空が好きすぎるのだ。その分恋愛事のパートナーに気が行かない。  パイロットにこれほど向いている人材もなかなかいないけれど、人生はそれだけではない。  そんなことに立花はすこし心配もしていたのだ。  自宅によく来ていた貴堂に、娘の紫が憧れを持っていることはなんとなく察してはいた。  けれど、紫は自分の方を向かない男性にも心を尽くせる性格かと言うとそうではない。  末っ子で甘えん坊。  交際相手にもいつでも自分を見ていてほしいという願望のある子だ。娘は貴堂には向かない。  貴堂に合うのは貴堂がどこを見ていても、仕事でも空でも、それを心から応援することのできる人だ。  そして、なおかつ自分を持っている人。
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