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一緒にいたあの女性がそうならいい、と立花は思った。
「大丈夫?」
「だ……いじょうぶです……」
しまったと貴堂は思っていたのだ。
──本当に浮かれすぎた。
デッキから駐車場に向かうまでも、人の少ない通路を選んだはずだったのに、まさか声をかけられるとは思っていなかったのだ。
立花だけならまだ良かったのかもしれないが、紫のこれ見よがしな態度は正直、貴堂も好むところではない。ましてや紬希はなおさら苦手だろう。
ふと見た紬希の顔色が真っ白になっていて、大丈夫とは言っているけれど、先程までの表情とは全く違う。
「すまない。本当に申し訳ない」
「あのっ、貴堂さんは悪くないです! 私が……いけないんです。気にしなければいいのに。ごめんなさい。気を遣わせてしまって。ごめんなさい。今日は、帰ります」
「紬希」
貴堂がそっと肩を抱いたら、びくっと身体が逃げる。
「ごめんなさい。わざとじゃなくて……すみません」
ごめんなさいと何度も謝って俯いてしまう紬希だ。
「どうしても、帰る?」
「すみません。本当に貴堂さんは悪くないです。私が……」
これ以上引き止めても、紬希は自分を責めるだけになってしまう、と判断した貴堂は紬希を送ることにした。
「分かった」
車に向かった時だ。
「貴堂さん?」
いつもはこんな風に人に会うことはないのに、今日に限ってはなんなんだ?と貴堂が振り返るとそこにいたのは花小路だったのだ。
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