13.先にあるもの

6/11
前へ
/212ページ
次へ
 一緒にいたあの女性がそうならいい、と立花は思った。 「大丈夫?」 「だ……いじょうぶです……」  しまったと貴堂は思っていたのだ。 ──本当に浮かれすぎた。  デッキから駐車場に向かうまでも、人の少ない通路を選んだはずだったのに、まさか声をかけられるとは思っていなかったのだ。  立花だけならまだ良かったのかもしれないが、紫のこれ見よがしな態度は正直、貴堂も好むところではない。ましてや紬希はなおさら苦手だろう。  ふと見た紬希の顔色が真っ白になっていて、大丈夫とは言っているけれど、先程までの表情とは全く違う。 「すまない。本当に申し訳ない」 「あのっ、貴堂さんは悪くないです! 私が……いけないんです。気にしなければいいのに。ごめんなさい。気を遣わせてしまって。ごめんなさい。今日は、帰ります」 「紬希」  貴堂がそっと肩を抱いたら、びくっと身体が逃げる。 「ごめんなさい。わざとじゃなくて……すみません」  ごめんなさいと何度も謝って俯いてしまう紬希だ。 「どうしても、帰る?」 「すみません。本当に貴堂さんは悪くないです。私が……」  これ以上引き止めても、紬希は自分を責めるだけになってしまう、と判断した貴堂は紬希を送ることにした。 「分かった」  車に向かった時だ。 「貴堂さん?」  いつもはこんな風に人に会うことはないのに、今日に限ってはなんなんだ?と貴堂が振り返るとそこにいたのは花小路だったのだ。
/212ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10081人が本棚に入れています
本棚に追加