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「私がいけないのよ。貴堂さんは……悪くないのにっ……どうしよう、きっととても嫌な思いをさせてしまった」
紬希は優しすぎて相手を責めることを絶対にしない。それは良いところでもあるけれど、悪いところでもあった。
相手を責めず、自分ばかりを責めてしまうのは、紬希自身には決して良くないことだ。
反省は必要だけれど、必要以上に自分を責めることはないのだ。
「貴堂さんを嫌いになった?」
運転席からの声に紬希は首を横に振った。
「それは絶対にないわ」
「じゃあ、話せる?」
その問いには紬希はすぐにうん、と答えることは出来なかった。
貴堂は上司に堂々とお付き合いしている人だと紹介してくれたのだ。
腕に触れた彼女の手を失礼のないようにそっと外しているのも見た。
しつこく教えて下さいねと言っていた彼女にも節度ある態度を取っていたのである。
貴堂には何も瑕疵はない。
彼女に対して勝手に引け目を感じているのは紬希の方なのだから。
勝手に引け目を感じてごめんなさい、そんな風に謝ったらきっとまた貴堂は気にする。自分が悪いのだと言って。
そんな光景が頭に浮かんでしまって、今すぐ話す気持ちにはなれない紬希だった。自分の気持ちをうまく説明する事も出来ない。
雪真は窓の外を見てそうっとため息をついた。
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