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「高校1年の文化祭で衣装係になってそこで服飾の面白さを知ったらしいですからね。大学は服飾の専門科に通って、アパレルメーカーに就職して楽しそうでした」
「トラブルがあったんだって? 先輩が自意識過剰だと言ったとか聞いたが」
「そんなもんじゃありませんでしたよ」
雪真は鼻で笑う。
「直属の上司だったそいつは、ストーカーだったんですから。見られているなんてもんじゃない。あいつは紬希を付け回していました。そんな訳はないと紬希は否定していたんだ。それをおかしいと説得して透と僕が会社に通報したほうがいい、と言ったんです」
通報されて逆上したその上司は、紬希の自意識過剰なのだと言い張った。
そうして根拠のない言い訳を並べ立てたのだという。
「身を守るために弁護士を立てざるを得なかったし、そうなったら会社も行けなくなりますよね」
「それは……」
紬希は見られることも、触れられることも、怖いのだと言っていた。納得だ。
そんなにつらい思いを何度も何度も、あの優しい紬希がしてきているのだと考えると、幸せになってほしいと心から願う雪真の気持ちも貴堂は分かった。
「それは見られるのも怖いだろうな」
「だから出掛けたと聞いて驚いたんですよ」
「そうか。どれほどの覚悟をしてくれたのか。想像すると胸が痛む」
それは貴堂が思っていた以上の出来事で少なからず貴堂はショックを受けた。
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