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それでは人のことを……いやむしろ男性を怖いと思ってもおかしくはないし、見られるのが苦手なのもよく分かる。
「貴堂さん、預かってきたのはこちらです」
雪真は持って来た紙袋を貴堂に手渡した。
貴堂が中身を確認する。
「シャツか……」
受け取って確認した貴堂の気持ちは複雑だ。
もちろん直接紬希から受け取りたかったしお礼を言いたかった。
着ているところも見てほしかったし、それを見て、また照れてしまうのならそんな紬希を抱きしめてしまいたいのに。
「どうしても渡したかったようでした。けど今は無理だから、と預かりました」
仮縫いの時『ふつつかですが……』と言った紬希の表情を貴堂は思い出す。
「ふつつか……か」
雪真が首を傾げる。
「紬希だよ。交際を了解してくれた時にそう言ったんだ。ふつつかですがお願いします、と」
「紬希らしい」
想像して雪真は笑ってしまった。一緒になって貴堂も笑う。
「だな。確かに彼女らしい。……けど、ふつつかなのは僕だったな」
「諦めますか?」
諦めるのか?雪真にそう聞かれて、諦めきれる訳なんかないと貴堂は強く思った。
「まさか」
そう言って貴堂は雪真に向かって笑う。
「ゴーアラウンドだよ」
飛行機を操縦していると天候やそれ以外の理由で着陸が困難だと感じることがある。
以前この部屋で紬希とその話をしたことを貴堂は思い出す。
紙飛行機の話だ。
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