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『上手くなくても。それもきちんと汲み取ってくれる人だよ。紬希が選んで心を開いた人は信頼できる人だ』
雪真はそう言っていた。
(私が選んで、心を開いた人……)
そんな風に考えた事はなかったけれど、確かにその通りなのだ。紬希が選んだ人は信頼できる人だと言った。
決心して、紬希はテーブルに置いてあった携帯を手に取る。
思い切って貴堂の電話番号を選択し、発信ボタンを押した。
けれどもその電話は即座に留守番電話に切り替わってしまったのだ。
搭乗しているときは携帯の電源は切っていると聞いている。
──きっと、飛行機に乗っているのね。
そうは思ったけれど、なおさらに貴堂がいつもくれているものがどれだけ貴重なものだったのか、分かった。
一緒にいられる時間は少なくてもその中で貴堂はできる限りのことをしてくれていた。
──私はどうなの?
いつだって、過去だって、紬希は紬希に出来る最上のことをしていた。
結果的に悲しいこともあったけれど、それは自分が悪いのではない。そういうこともあるのだ。
それが、急にストンと胸に落ちてきた。
出来るベストを尽くしても、どうしようもないことは起きる。
けれど、いつも紬希には助けてくれる人がいたのだ。その人たちはなんと言ってくれていた?
紬希は悪くない、といつも言ってくれていた。
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