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15.待機終了10分前に電話は鳴るものである
紬希は雪真と、普段貴堂と使う駐車場に近い出入口で待ち合わせをした。
目立たないように肩章などは外しているが、雪真は制服だった。
「紬希!」
「雪ちゃん? 何かあったの?」
「乗務のために先ほど出社したんだ。けど、今すべての飛行機の離着陸は制限されてる。紬希、エンジン火災だ」
ひゅっと紬希は背中に氷を当てられたような気がした。
「それは……」
わざわざ雪真が紬希を呼び出す理由なんて一つしかない。
「貴堂さんが操縦している機体だ」
雪真のきっぱりした声。
紬希は一瞬目の前が暗くなった気がした。
いろんなことが紬希の頭の中を駆け回る。
まだ、貴堂さんに大事なことを伝えてないとか、貴堂さんは絶対大丈夫とか、会えなくなったらどうしようとか、明るい笑顔とか、最後に別れたときの悲しそうな顔とか……だ。
思わずふらりとした紬希は雪真が差し出してくれた手に掴まる。
「それって、すごく危ないの?」
「通常通りとは言えない。ただ、そのための訓練を僕らは受けている。信じるしかない。あとから知るのでは嫌だろうと思って呼んだんだ」
確かに紬希はとても動揺しているのだけれど、雪真にはそれほどの動揺は見えない。
信じるしかないと言われて、紬希はハッとした。
雪真は紬希を近くの椅子に座らせる。そうして自分もその隣に座った。
雪真が覗き込んだ紬希の顔が今までと違うことに雪真は気付く。真っ直ぐに雪真を見返しているのだ。
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