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「おそらくあと10分ほどで着陸するはずだ。紬希、降りてくる機体は貴堂さんのだけだと思う。デッキに出れば見られるだろう。とても難しい着陸だ。エンジン火災で片方のエンジンはストップしているからもう片方の1機のエンジンだけで着陸しなければいけない。けどさっきも言ったけれど、そのための訓練を貴堂さんは繰り返し受けているんだ」
紬希はこくんと頷いた。不思議と涙は出なかった。ずっと真剣に話していた雪真の表情がふ……と緩む。
「紬希、泣かないんだな」
「だって、雪ちゃんは落ち着いているもの。それって、貴堂さんを信じていて、自分たちがやってきたことを信じているからでしょう?同じ状況になっても大丈夫と思っているからなのじゃないの?」
雪真は瞳を伏せる。
「訓練では片側のエンジン停止というのは、頻繁にあるトラブルなんだけれど、実機では僕も片側だけのエンジンでの着陸はしたことない」
もちろん、訓練中は何度となくやってきたことではある。
「紬希の言う通りやってきたことを信じるしかないし、貴堂さんのことを信じるしかない。そういった意味では貴堂さんは信じるに足る人だと思う。それに今この件に関わっている全ての人がそれぞれ全力を尽くしている」
「私、デッキで待ってる」
真っ直ぐに雪真を見る紬希の瞳がきらきらと輝いていて、とても綺麗だった。
思わず雪真は紬希を抱きしめる。
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