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──どうして?どうしてそれを僕には向けてくれなかったの?
紬希を大事に思っていた。ずっとずっと大切だった。
なのに、守ることばかりに夢中になってしまって、一緒に外に出ることをしなかった。
いつまでも側にいてくれる存在だなんて、どうしてそんな風に思ったんだろう。
「雪ちゃん? 大丈夫よ? きっと貴堂さんは大丈夫だから……」
思わず抱きしめた雪真に紬希はそんな風に優しく声を掛けてくれる。
雪真が不安がっているとでも思ったのだろうか。
「うん……」
──一緒に手を繋いでいたら、違ったのかな。
紬希はもう手を離れてしまった。失ってから気づいてももう遅い。
この二人は離れていてさえ信頼している。
そして、つらくても相手のことをお互いに想っている。
(本当は僕もそうなりたかったみたいだよ、紬希)
雪真は華奢な紬希の身体をもう一度抱きしめて、背中をポンポン、と叩いた。
「そうだな、貴堂さんは絶対大丈夫」
そうして、そっと身体を離す。
「紬希、デッキに行きな? 僕は会社に戻って現状を把握してくる」
「うん、分かった」
そう言った紬希はそっと雪真の手を握った。
「教えてくれて、側にいてくれてありがとう。雪ちゃんは大切な人だわ」
「僕もだよ。紬希、気をつけて行っておいで」
「じゃあ、雪ちゃんまた後でね!」
早足でデッキへと向かう紬希の姿を見送って、雪真はJSAの社内へと向かった。
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