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時間は少しだけ戻る。
待機のため自宅マンションにいた貴堂の携帯が鳴ったのだ。
スタンバイ中はすぐに出られるように、玄関にフライトバッグを準備してある。
腕時計を見たら、待機時間はあと20分で貴堂は苦笑してしまった。
それでもコール1回から2回で即座に電話に出た貴堂だ。
『貴堂さん、すみません。あと20分位でしたよね』
「いや、もちろん構わない」
『ショーアップをお願いします。10時20分発のパース行きです』
「分かった。すぐに出ます。迎えは?」
『そちらに向かってます』
貴堂は定時のフライトなら自家用車で空港まで行くこともあるが、基本は会社からの送迎がある。
単に運転することが苦ではないから、混まない時間なら、送迎を不要として自分の車で行っていたが、このような事態の時は気持ちや体力、下準備が必要となるので送迎の車を利用することにしていた。
「ありがとう」
すぐに貴堂は紬希のシャツを手に取る。少しだけ迷って、肩章、胸章をそのシャツに付け替える。
着心地は普段のものと全く違って包み込むような優しさがあるような気がした。
(紬希……一緒に行ってくれるか?)
準備を終えた頃、マンションのコンシェルジュから連絡が入る。
『貴堂様、お迎えの車が到着しました』
「ありがとう。すぐ行きます」
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