15.待機終了10分前に電話は鳴るものである

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 制服のジャケットはロッカーなので、家からは自分のジャケットを羽織り、フライトバッグを引いてエレベーターを降りる。 「どうぞ」  黒塗りの車が待っていて、ドアを開けてくれる感じがいつまで経っても慣れない。  けれど彼らも仕事なのだし、貴堂も仕事なのだ。 「ありがとうございます」  そう言って貴堂は車に乗り込んだ。 「混んでいませんか?」  車に乗ると貴堂はそう運転手に声を掛ける。 「そうですね、行きは逆側は混んでいなかったと思います」 「分かりました。よろしくお願いいたします」 「かしこまりました」  その間に貴堂はタブレット端末で、気象情報や運行情報、滑走路の状況や積荷の確認を進めていく。  会社に到着したら、フライトブリーフィングがあるが、その前に把握しておかなければいけないこともあるからだ。  パースまで約10時間のフライトになる。  会社に入り、ロッカーでジャケットを羽織って身だしなみを整え、出社の手続きをしてアルコールチェックを受ける。問題なかったため貴堂はブリーフィングルームに向かった。  その入口には立花航(たちばなこう)が立っていた。 「よろしくお願いいたします」 「あ、立花くんが一緒?」 「はい」 「よろしくお願いします」 「お願いいたします」  以前はディスパッチャーという運行管理者も一緒にブリーフィングしたのだが、今は一緒には打ち合わせしないケースもある。
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