パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する

15.待機終了10分前に電話は鳴るものである

　音からは尋常ではない出来事が起こったことが分かるし、アラームもそれを知らせていた。
　右エンジン側の温度が異常に高く、その警報が鳴っている。

「FIRE Engine Right 」（右エンジンから出火）
「FIRE Engine Right」

「 A/T ARM switch off,Right thrust lever IDLE」（自動推進スイッチオフ、右エンジンの推力を最低出力へ）
「Right fuel control switch cut off 」（右エンジンの燃料遮断）

　これで、エンジンへの燃料の供給が止まる。すぐに延焼するようなことは防げるのだ。

「Right engine FIRE Switch pull and rotate」（ 右エンジンの油圧・電気・燃料遮断と消火剤放出）
「First bottle Discharge 」（消火剤1本目放出）
「Time Check」（消火剤放出からの時間を測る）

　二人は鳴り響く警報の中でも淡々とすべきことをこなしてゆく。一つ一つアラームの音が止まっていった。

「Contact Departure MAYDAY 」（ディパーチャーにコンタクトして緊急事態を宣言して）

　その貴堂の声に立花は即座に管制へ緊急事態を宣言した。
　そしてエンジンからの出火と即座に旋回したいことを伝える。
　緊急事態を宣言することで、今、空を飛んでいるあらゆる機体から優先されるのだ。

『Say again please』（もう一度お願いします）
　さすがに管制も驚いたようで繰り返しを要求した。