16.『推し』ですっ!

1/11
前へ
/212ページ
次へ

16.『推し』ですっ!

「皆様、機長の貴堂です。当機は右エンジンに不具合が発生したため、羽丘国際空港に引き返します。現在飛行機は落ち着いている状態です。当機は燃料を消費し安全に着陸するため、しばらく上空を旋回します。左エンジンだけでも十分に、かつ、安全に着陸できます。引き続きシートベルトをお付けになって、お席でお待ちください。お急ぎのところ大変ご迷惑をおかけいたします」  英語で同じ内容を繰り返したあと、貴堂は機内アナウンスを切り替える。 「よし、替わろう。I have control」 「You have control」  上空を旋回している間に降ろせる機体は全て降ろし、待機できる機体には待機してもらう。  貴堂の機を降ろす滑走路は閉鎖になり、会社、消防とも連携していよいよ着陸、ということになった。  管制から着陸許可が降り、着陸の準備に入る。  右エンジンが故障した場合、左エンジンは右への片揺れを起こし、進路を右寄りに変えようとする。  その可能性を見越して、ジェット機メーカーはラダー(方向陀)とエルロン(補助翼)に、必要に応じて片揺れを打ち消す制御をしているのだ。  警告からも片揺れを制御するラダーやエルロンの不具合が起きていないことは確認できていた。 『前輪がうまく動かないショッピングカートを押そうとしているようなもんだな』  飛行訓練をしていた時の教官の言葉だ。    ちなみにその教官はその言葉の後、笑顔で片方のエンジンを止めた。
/212ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10083人が本棚に入れています
本棚に追加