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航大時代のナンバーワンくらいにマジか!?と思った出来事だった。
しかし後から思うと、なるほどと貴堂が思った例えである。
右車輪が破損しているカートは右に動いていこうとする。けれど、強く抑えてやれば真っ直ぐ進むことが可能だ。
そして、貴堂は今搭乗しているような完全制御の機体ではない飛行機で、片側のエンジンを上空で止められるような訓練をしてきているのだ。
貴堂が機体の制御に集中するため、操作や管制とのやり取りを立花が引き受ける。
貴堂はもう一度機内にアナウンスする。
「大変お待たせいたしました。ただいまより当機は着陸態勢に入ります。着陸時に通常より揺れることも予想されますので、安全体勢をお取りください」
機体を真っ直ぐに安定させて、貴堂はゆっくりとコースに進入させる。
正面に真っ直ぐ伸びている滑走路が見えた。
タイヤが接地面に触れ、若干ハードなランディングにはなったが、それでも乗客が恐怖を憶えるほどではなかったはずだ。
──まだ着陸まで時間はあると言ってたわ。
デッキに上がった紬希は一番先端の滑走路がよく見えるところまで早歩きで歩く。
飛行機の観覧に来ているのか、見送りなのか、小さい子供を連れた母子がいて「ひこうき、こないねぇ」と言っている。
その時、紬希はJSAの白と濃紺の機体が小さく空にチカッと光ったのを見た。
降りてくるのは貴堂の機体だけだと雪真は言っていたのだ。
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