10083人が本棚に入れています
本棚に追加
今までの不安な気持ちや、足元が不安定に思えるような気持ちが不思議と綺麗に消えていた。
今、思うのは『貴堂さんなら大丈夫』という強い信頼感だけだ。
「紬希」
インカムを付けた雪真が紬希に駆け寄ってくる。
紬希は頷いた。
「あれよね?」
「そうだ。損傷があったのはエンジンだけで、油圧系統他の制御機能には損傷はない。その状態なら貴堂さんだったら無事に着陸させる」
雪真は紬希にそう伝えた。
紬希はこくりと頷く。
そうしてポツリとした点が飛行機の形となり段々近づいて来るのを祈るような気持ちでじっと見つめる。
「南からの風、5ノット、風の影響はほとんど受けない。着陸はランウェイ23、あの奥だ」
そう言って雪真が奥の滑走路を指さす。
一番奥の滑走路の脇には赤色灯を止めた消防車や救急車が待機しているのも確認できた。
ゆっくり機体が降りてくるのが見える。
「うん。問題なく車輪も出ているしフラップも大丈夫そうだ」
雪真の声には不安の色は全くない。
先程の小さな子が「おかあさんひこうき、きたー!」と喜んでいた。
少し離れた滑走路に、機体は着陸する。
とてもアクシデントのあった機体とは思えない。
紬希から見たらごく普通の着陸に見えた。
滑走路上に機体が止まって、しばらくしてから消防車や救急車が近寄っていくのが普通ではないことくらいだろうか。
けれど、放水などする感じではなかった。
「紬希、おいで」
最初のコメントを投稿しよう!