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雪真が紬希の手を引く。
「雪ちゃん?」
「貴堂さんはこの後社内での聞き取りなどがあるから、すぐ戻れない可能性がある。その前に顔が見たいだろう?」
紬希はこくこくっと頷いた。
会社や消防とのやり取りが終わり、延焼はなかったが、念の為トーイングカーで牽引されて、機体は滑走路から出ることになった。
貴堂は大きく息を吐く。
乗客についてはこの後、体調の確認などの上、別の飛行機で再度パースに向かうことになる。
貴堂と立花は会社に報告をしてから、明日以降、警察や国土交通省のヒアリングもあるだろう。
しばらく、乗務することはできないがそれもやむないことだ。
それよりも、乗員乗客を無事に連れて帰れたことの方が大事だった。
──何事もなくて、良かった。
先程、キャビンからの報告で着陸によるけが人などはいないと聞いている。
多少気分が悪くなった人はいたようだが、火災からしばらく上空にいなくてはいけなかった心理的なプレッシャーを考えると、それも分からなくはない。
貴堂が乗客を見送ったキャビンに戻ると、CAから拍手を送られた。
「おいおい、辞めるわけでもないんだから」
貴堂は思わず苦笑してしまうと、真木が笑顔になる。
「いえ。お見事でした」
「貴堂キャプテンのお陰で私達も安心してお客様に対応出来ました」
ありがとうございました!と声が上がる。
貴堂も乗務員を見返す。
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