16.『推し』ですっ!

6/11
前へ
/212ページ
次へ
 そう言ったのは自分だけれど、間違いはなかった、と貴堂は思う。 「だって、紬希は僕のパートナーだからな。信頼してくれてありがとう」 「すっごく心配もしました」 「そうだな。ごめんね」  いつまでもこうしていたいけれど、後の対応もある。 「紬希、僕の部屋で待っていてくれる?」  そう言って貴堂は紬希に部屋の鍵を渡した。 「はい」  紬希は笑顔でそれを受け取ったのだった。  周り中が見ていたけれど、紬希は気にならなかった。だって、目の前の貴堂だけしか目に入らなかったから。  先程、機内での挨拶を貴堂がした時はこぞってCAが色めき立ったのが分かった真木だった。  イケメン、将来有望な優秀なパイロットで、しかも独身。  こんな彼女と抱き合うようなシーンを見せられたのではガッカリなのではないだろうか。  しかし、乗務員部に戻る時である。  CA達の浮き立った雰囲気は壊れていなかった。  ガッカリしないの? 「尊くなかった?」 「それ! 私も思った!」 「もう、映画かドラマのワンシーンのようでしたねー」 ──はい? 「素敵な貴堂さんと、妖精のように綺麗な彼女……」 「溺愛でしたねー」 「推せる!」 「推しですー!」 ──推し……?とは? 「え? あなた達こう……がっかりしたりしないの?」 「がっかり? なんでですか?」  真木の質問にきょとん、とした表情を返される。
/212ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10083人が本棚に入れています
本棚に追加