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貴堂が頼んでいるのなら、紬希に断る理由はない。
「はい」
そう返事をして、紬希は玄関に向かった。
「失礼します」
大きなクーラーボックスを持って彼は慣れた様子で部屋の中に入ってきた。
この前のようにキッチンに入り、淡々と料理を始める。
紬希はそうっと近寄ってみた。
「あのー……」
「はい」
彼は作業の手を止めず返事をする。
「お手伝いとかしちゃだめですか?」
「は?」
「あの、私今日貴堂さんのお部屋に一人でお邪魔するのは初めてでその……手持ち無沙汰というか、なんですよね……」
彼は無言で冷蔵庫から飲み物を出し、包丁でフルーツを切ってコップの中に入れ、そこにジュースを注ぎ、紬希に差し出した。
「お嬢さんはいい子にして座っていてください」
「いえ、私お嬢さんでは……」
「女の子でしょう? しかも貴堂さんの彼女じゃないんですか?」
「お付き合いはさせて頂いて……うわ! これすごくおいしいです!」
「飲みきったらフォークを差し上げますよ。中のフルーツも食べられますからね」
「はい!」
紬希がご機嫌でジュースを飲んでいるのを見て、彼は口元に笑みを浮かべていた。
「目の前で美味しいと言って食べてもらえるのは嬉しいことですね」
「あ、それ分かります。私はシャツを作っているんですけど、ぴったりだとか、着心地がいいと言ってもらえたら嬉しいもの」
「シャツ?」
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