16.『推し』ですっ!

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 貴堂が頼んでいるのなら、紬希に断る理由はない。 「はい」  そう返事をして、紬希は玄関に向かった。 「失礼します」  大きなクーラーボックスを持って彼は慣れた様子で部屋の中に入ってきた。  この前のようにキッチンに入り、淡々と料理を始める。  紬希はそうっと近寄ってみた。 「あのー……」 「はい」  彼は作業の手を止めず返事をする。 「お手伝いとかしちゃだめですか?」 「は?」 「あの、私今日貴堂さんのお部屋に一人でお邪魔するのは初めてでその……手持ち無沙汰というか、なんですよね……」  彼は無言で冷蔵庫から飲み物を出し、包丁でフルーツを切ってコップの中に入れ、そこにジュースを注ぎ、紬希に差し出した。 「お嬢さんはいい子にして座っていてください」 「いえ、私お嬢さんでは……」 「女の子でしょう? しかも貴堂さんの彼女じゃないんですか?」 「お付き合いはさせて頂いて……うわ! これすごくおいしいです!」 「飲みきったらフォークを差し上げますよ。中のフルーツも食べられますからね」 「はい!」  紬希がご機嫌でジュースを飲んでいるのを見て、彼は口元に笑みを浮かべていた。 「目の前で美味しいと言って食べてもらえるのは嬉しいことですね」 「あ、それ分かります。私はシャツを作っているんですけど、ぴったりだとか、着心地がいいと言ってもらえたら嬉しいもの」 「シャツ?」
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