16.『推し』ですっ!

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「ただいま。なんだか楽しそうだね」 「貴堂さん! お帰りなさい。お疲れ様でした」 「ん。ただいま、紬希」  門脇がいるのもはばからず、貴堂は紬希をきゅっと抱きしめる。そうしてダイニングテーブルの上を確認した。 「うまそうだな。腹減ったよ」  機体トラブルのせいで昼食は食べられず、着陸してからは会社での聞き取りがあり、その後そのまま帰ってきた貴堂である。 「はい。本当にお疲れ様でした」 「何かあったのか?」  門脇の質問に貴堂は頷いた。 「どうせニュースになる。パースに向かう途中でエンジン火災。そのまま羽丘に引き返したんだ」 「無事だったのか……すごいな」 「まあ、エンジン火災だけだったからな。他にトラブルがなかったのは助かったよ。明日はオフで明後日は出勤。報告書やら調査への協力やら考えると頭が痛い」 「何百人かの命を救ってそれなのか?」 「再発防止策とか言われると仕方ないな。デスクワークは嫌いだとか向いてないとか言っていられない。で、何をそんなに仲良く話していたんだって?」 「紬希ちゃんがシェフコートやエプロンを作ってくれるというので」 「シェフコートやエプロン? それは可愛いな」 「貴堂? どういうのを想像している?」 「紬希のシェフコートとエプロンだろう? けど、シェフコートよりエプロンがいいな。エプロンはこう白くてヒラっとしているやつ」
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