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貴堂にとってはある意味当然のように淡々としているのが、紬希は尊敬してしまうところなのだ。
「紬希、今日は空港まで一人で来たの?」
「はい」
「あんなことがあったのに」
貴堂の言うあんなこと、とは立花紫とのことだろう。
「嫌な思いをさせてしまって、申し訳なかったね」
紬希は首を横に振る。
「謝らないでください。私も自分を責めたんです。貴堂さんは悪くないのに、謝らせてしまったって」
──紬希……?
声は相変わらず澄んだ鈴を転がしたような声なのに、落ち着いた雰囲気は以前とは違うように貴堂は感じた。
「堂々としている彼女に対して、引け目を感じたんです」
「そんなの、感じなくていいのに」
「そうですね」
そんな風に答える紬希はとても穏やかで、なのにゆるぎない。
「私には私のものがあるって、今まで思わなかったんです。けど、私にもちゃんと誇れるものがあるんだって教えてくれたのは、貴堂さんです」
どんな表情でこんな話をしているのか、どうしても見たくなってしまった貴堂は、紬希の顎をそっととらえて、自分の方に向かせる。
「貴堂さん……?」
茶色い髪、真っ白な肌。
大きな琥珀のような瞳、儚げな風情なのは相変わらずなのに、真っ直ぐ貴堂を見つめる瞳は揺らぐことはない。
こらえきれずに貴堂は紬希の唇に自分の唇を重ねた。
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