17.育成教育

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「どこまで好きにさせたら気が済むの?」  そっと顔を離して紬希にそう尋ねる。 「え? あの、私は貴堂さんに感謝してて尊敬していて、大好きで信頼してるって言いたくて……」 「もう、黙って」  儚げでも弱くはない。  ものごとを真っ直ぐに澄んだ瞳で見つめることのできる人だ。  その純粋な美しさに惹かれないわけがない。 「こんな人、好きにならないわけがないだろう」  そっと紬希の頬に触れ、柔らかく唇を重ねる。何度かそれを繰り返して、紬希が慣れてきた頃合に唇を優しく何度も吸う。甘くて優しいキスは愛おしい気持ちがとても伝わる気がした。  腕の中にもたれかかってくるその重みが嬉しい。  少しずつ、紬希の息が乱れていくのも。 「紬希も心を乱されたかもしれないけれど、僕だって乱されている。空港で僕の腕は拒否したのに、花小路くんには平気だし、今日も知らない間に人見知りの紬希が門脇と仲良くなっているし」 「乱れるんですか?」 「むちゃくちゃ乱れるよ。ただ、それを理性で抑えることに慣れているだけだ」  紬希がひょい、と顔を覗くと少しだけ拗ねたような貴堂の顔があって、見たことのないその表情につい、紬希は貴堂の顔に手で触れてしまった。 「貴堂さんが心乱れるなんて、信じられないわ」 「僕だってとても心が乱れるよ。好きな人には」  貴堂が笑って指の背で紬希の頬をそっと撫でる。
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