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説明してやって見せる『提示』は充分に習得しているのかも知れない。今回のケースはいきなり『適用』に行ってしまうパターンだけれど生徒によって教え方を変える臨機応変は必要なことだ。
しつこいようだが貴堂は優秀な教官でもあるのだ。
「どうぞ?」
そう言われて紬希は自分の手をそっと貴堂の肩に置く。
そしてそうっと顔を近づけたのだが、貴堂がすごく紬希を見ていてどうしたらいいのか分からなくなってしまった。
「あの、じって見られていたら困ります……」
「困ったな、すごく一生懸命な紬希が可愛いから見ていたいんだよね。大丈夫。紬希は大好きって気持ちを伝えるような感じですればいいんだよ」
そうなのだ。大好きと伝えるための愛情表現なのだ。
「コツを教えるよ。唇をしっかり見て重ね合わせたらいい」
貴堂の瞳がとても素敵なので、つい見てしまうのだけれど、唇なら見られるかもしれない。
というか、唇の形まで綺麗だわ……。
けれど確かに唇を見ていれば、目をじっと見ているときほどは緊張しない。
紬希はそっと唇を重ねた。ふと貴堂の唇が弓形に微笑んでいる。
「笑ってます?」
「いや?幸せで。とてもいいよ。続けて?」
何度か重ねて、緩く唇を吸うとちゅ……と音が漏れてしまって紬希はどきりとする。
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