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けれど一緒にいるときはこんな風に体温を感じさせて安心させてやりたいと思うのだ。
胸の中で紬希は続ける。
「まだ、貴堂さんに大事なことを伝えてないとか、貴堂さんは絶対大丈夫とか、会えなくなったらどうしようとか、貴堂さんの明るい笑顔とか思い出したら、最後に別れたときの悲しそうな顔が本当につらかったんです。私、貴堂さんには笑顔でいてほしいの」
「紬希、それは僕も一緒だ。紬希には笑顔でいて欲しい」
貴堂は雪真からも話を聞いている。それを聞いたら尚更だ。
「私、きっともう自分のこともちゃんと信じられるし、貴堂さんのことも信頼しています」
「そうか……」
やはり、儚いだけではない女性なのだ。
その告白は、貴堂にもとても嬉しいものだった。貴堂は紬希のその髪や額にそっと何度もキスをする。
「貴堂さん……」
「ん?」
「私、貴堂さんのことがもっと知りたいです」
貴堂は苦笑する。
「紬希、この状況でそんなこと言っちゃダメだ。男は誤解するよ?」
「誤解じゃ……ないです」
囁くほどに小さな声。
けれど、貴堂はそれを聞き逃すことはない。
思わず紬希を見ると茶色い瞳が潤んでいて、熱をたたえているのに薄く羞恥心が垣間見え、それはとてつもなく艶めいている。
「後悔……しないね?」
紬希はこくりと頷いた。
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